サボテンの茎と花のトゲの二形性
最近、サボテンの花の時期も過ぎてしまい、ブログに書くネタがなくなってきました、、、。
何かないかなと思っていたところに、ちょうどサボテンの実が熟して種がとれたので、これについて少し書きたいと思います。
やや学問的な話題になるかもしれませんが、興味がありましたらお付き合いください。
花は、茎や葉が変化したもの
「植物の花という器官は、茎や葉が変化して形成される」
この事実は植物学者の中ではもはや普遍的な事実となっていますが、一般の人は「どういうこと?」と思われるかもしれません。
植物学では、茎と葉と植物の頂点 (先端)の分裂組織からなる構造をシュートと呼びます。花がある場合とない場合で区別する際は、前者を生殖シュート、後者を栄養シュートなどと呼びます。
栄養シュートが何らかの変化をして生殖シュートになる現象 (=花を咲かせること)を、植物学では「植物の花という器官は、茎や葉が変化して形成される」ととらえています。
上記は、一部の植物種で遺伝子を用いた解析がされて解明されている現象ですが、被子植物で共有されている現象であると見られています。ですので、サボテンもこの例外ではないでしょう。
サボテンの花は、茎やトゲが変化して形成される
サボテンはトゲが生える組織を持ち、これを刺座 (しざ、英語でareole、アレオールと読む)と呼んでいます。
上の写真を見てください。
サボテンの茎はトゲだらけで、刺座があります (トゲが生える根元の部分が刺座です、1ヶ所から集中してトゲが生えていますね)。
同時に花の裏側にもびっしりトゲが生えており、花にも刺座があることがわかります。
サボテンは、栄養器官 (茎葉)と生殖器官 (花)で共通の組織 (この場合、刺座とトゲ)を持つことが見てすぐにわかります。
つまり、サボテンの花は、「植物の花という器官は、茎や葉が変化して形成される」という現象を理解するのによい例だな、と個人的に感じています。
茎のトゲと花のトゲの二形性
さて、ここで今回のブログの記事のタイトルにもあった「二形性」について話したいと思います。
先ほど、サボテンは茎も花もトゲと刺座を持つ、と説明しましたが、サボテンの分類学では茎の (=栄養器官の)トゲと刺座と、花の (=生殖器官の)トゲと刺座を別の組織として考え、それぞれ分類学的識別の上で重要な形質ととらえています。
上の説明はわかりにくいのですが、言い換えてしまうと「茎につくトゲ」と「花に着くトゲ」は異なる性質・特徴を持つということです (見た目はほぼ同じ場合もありますが、、、)。
「茎につくトゲ」と「花に着くトゲ」で性質や特徴が違う時、これを「二形性がある」と言えます。
今回の写真の種類は、𝑬𝒄𝒉𝒊𝒏𝒐𝒄𝒆𝒓𝒆𝒖𝒔 𝒓𝒆𝒊𝒄𝒉𝒆𝒏𝒃𝒂𝒄𝒉𝒊𝒊 ssp. 𝒇𝒊𝒕𝒄𝒉𝒊𝒊 エキノケレウス・レイケンバキーのフィッチー亜種という種類ですが、茎のトゲはいずれも堅く先端が黒褐色になる白いトゲです。
一方、2つ上の写真の花を見ると、花にポワポワした綿毛のようなものがついています。
この綿毛のようなものは刺座から生えており、花のトゲ (の一部)だと考えられます。
また、上の果実の写真を見ると、果実 (=花)に付くトゲは綿毛のようなトゲ以外により長く黒いトゲも付けることがわかります。
まとめると、このサボテンの種類には、「茎に付く、針状で白く、先端が黒褐色に染まる」トゲと、「花に付く、綿毛が生える針状で長く黒色に染まる」トゲ、の2種類のトゲがあることになります。
生物学では、1つの生物種のある器官や組織が、成長過程の違いや栄養期間と生殖期間の違いでによって二形性を示すことがあることはよく知られており、この形態形成における二形性のことを専門用語でheteroblasty (ヘテロブラスティ)と呼んだりします。
サボテンを観察していて、多くの種類でトゲの二形性が見られることに気が付いたので、花が咲いた時はどんなトゲが花に付いているか観察すると面白いと思います。
花にほぼトゲや毛がない種類もありますが、それは花のトゲが退化して見えないレベルになっているだけで、花にトゲがない場合もよく観察すると花に刺座の名残のようなものがあると思われます。
マニアックな内容になってしまいましたが、今回はこんな感じで終わります。