tawashiatsume

植物、主にサボテン・多肉植物。時々登山、時々お酒。

南米のカラフルな花のサボテン 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 その1

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 'Anemone'、桃色の大輪花を咲かせる極上の系統

 今回は南米の高山に産する 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 (ロビビア属)というサボテンのグループの種類を紹介します。

 この仲間のサボテンの原種は、日本で「花サボテン」と呼ばれる花を観賞するサボテンの人工交配種の交配親としてよく用いられてきました。

 

 人工交配種は、栽培しやすく、それでいて花が大きくキレイな種類が多く、素晴らしいものです。交配種をさらに掛け合わせて様々な花色の系統を作出する楽しみもあります。

 

 しかし、原種も人工交配種に劣らない種類が数多く存在します。

 今回はそういった原種を中心に紹介をします。

人工交配種のような2色花

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 ssp. 𝒌𝒖𝒆𝒏𝒉𝒓𝒊𝒄𝒉𝒊𝒊 MN 81、素晴らしい2色の花

 まずはこの種類。

 

 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 ssp. 𝒌𝒖𝒆𝒏𝒉𝒓𝒊𝒄𝒉𝒊𝒊 MN 81 [Argentina. Salta: Piedra del Molino, alt. 3,750 m]という学名とフィールドナンバーを持つ種類です。

 日本での正確な園芸名は不明です。学名はロビビア・ハエマタンサのクエンフリキー亜種と言った読み方になります。

 

 学名が読みにくいので、日本では流行らなそうなのが残念です。

 

 名前はさておき、全体的には爽やかなレモンイエローの色を呈し、外側の花弁が薄い紫色からピンクに染まる2色花は見る人を惹き付けます。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 ssp. 𝒌𝒖𝒆𝒏𝒉𝒓𝒊𝒄𝒉𝒊𝒊 MN 81

 よく観察すると、小さな雌しべが深紅の色でよいアクセントになっています。

 

 このMN 81という系統は、アルゼンチンの標高3,750 mというアンデスの高山地帯から採取された系統で、人工的な交配の過程を経ていないので驚きです。

 草木に乏しい殺伐とした乾燥地でこのようなカラフルな花が咲く風景を、一度はこの目で見てみたいとも、気持ちを沸き立たせてくれます。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 ssp. 𝒌𝒖𝒆𝒏𝒉𝒓𝒊𝒄𝒉𝒊𝒊 MN 81、草体に対して花が非常に大きい。

 この系統の素晴らしい点をもう一つ挙げるとすれば、球体と花のバランスの良さです。

 

 球体は直径が僅か4 cm程でも、球体のより大きな花を咲かせてくれました。

 また、球体はやや青みを帯び、トゲも鋭くなるので、花が咲かなくとも観賞価値が高いです。

 

 人工交配種は、花こそ素晴らしいものの、球体といった花以外の要素は、花の見た目に対して劣ることが多いです。

 他の種類と見た目の差異が小さく似たり寄ったりにもなりがちです。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 ssp. 𝒌𝒖𝒆𝒏𝒉𝒓𝒊𝒄𝒉𝒊𝒊 MN 81

 この種類は日光と風によく当てて育てれば小さい姿を維持でき、球体の姿の良さも楽しめます。

 人工交配種は、交配種ゆえの成長の旺盛さから球体が巨大化し、柱サボテンのように縦に伸びあがってしまう傾向が強いです。栽培するための場所もより必要になります。

 

 一方で、MN 81の系統は小型ながらキレイな花が楽しめます。場所がない都会の人にもおススメできる系統です。

 

 また、MN 81の系統は、花の色の個体差が大きいようで、販売元では「黄色、オレンジ色、赤色の花の個体が出る」とありました。

 MN 81という系統を見かけたら、是非栽培されてはいかがでしょうか?

 

オレンジ色の大輪が素晴らしい花

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 v. 𝒓𝒆𝒃𝒖𝒕𝒊𝒐𝒊𝒅𝒆𝒔 TB 34.1、大輪が素晴らしい花

  次の種類は、1つ前のMN 81の系統の近縁種です。

 

 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 v. 𝒓𝒆𝒃𝒖𝒕𝒊𝒐𝒊𝒅𝒆𝒔 TB 34.1 [Argentina. Jujuy: Volcan, alt. 2,100 m]という種類です。学名の読みは、ロビビア・ハエマタンサのレブティオイデス変種といった具合です。

 

 透き通るようなオレンジ色の繊細な花びらが、光に当たるとキラキラと金属の光沢のように光って見えます。フワフワと広がる雄しべがチャーミングな花です。

 

 このTB 34.1という系統は、アルゼンチンの標高2,100 mの地点から採取されました。これも人工的な交配や選抜は経ていない系統になります。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒉𝒂𝒆𝒎𝒂𝒕𝒂𝒏𝒕𝒉𝒂 v. 𝒓𝒆𝒃𝒖𝒕𝒊𝒐𝒊𝒅𝒆𝒔 TB 34.1

 花の中心の奥が濃い紫色~黒色で、よいアクセントになっています。

 

 この種類は、前の種類と違ってトゲはあまり発達しません。地下にニンジンのような根を持ちますが、地上部は直径数cmの小型のサボテンです。

 

 この種類も系統によって花色に差異があり、通常はもっと赤色やオレンジ色を帯びることが多いです。またキレイな黄色になる系統もあります。

 

 このように黄色とオレンジ色になる系統は少し珍しいかもしれません。 また、薄いピンク色の花になる系統もあります (L 521という系統)。

 こちらも系統による花色の違いを楽しむと面白いかと思います。

 

爽やかなレモンイエローの花

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒂𝒖𝒓𝒆𝒂 v. 𝒒𝒖𝒊𝒏𝒆𝒔𝒆𝒏𝒔𝒊𝒔 WR 112

 次は純粋な黄色の花です。

 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒂𝒖𝒓𝒆𝒂 v. 𝒒𝒖𝒊𝒏𝒆𝒔𝒆𝒏𝒔𝒊𝒔 WR 112 [Argentina. San Luis, Quines, alt. 800 m]という系統です。学名の読みは、ロビビア・アウレアのクイネセンシス変種といった具合です。

 

 人工交配種の親種としても昔よく使われたという種類で、半透明の花びらや純粋な黄色の花を見れば納得がいきます。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒂𝒖𝒓𝒆𝒂 v. 𝒒𝒖𝒊𝒏𝒆𝒔𝒆𝒏𝒔𝒊𝒔 WR 112、球体はもっとトゲトゲしくなる。

 この系統も野外から採取された系統で、野生系統のままでも十分素晴らしいと思いますが、栽培にややクセがあるようで、あまり流通していないようです。

 

 しかし、この系統の素晴らしい特徴は花だけではなく、球体に密生するトゲもそうです。

 

 写真の個体はトゲがあまり発達していませんが、本来はもっと長いトゲが密生する素晴らしい種類です。

 

 様々な系統がある𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒂𝒖𝒓𝒆𝒂の中でも、アルゼンチンのサン・ルイス州に産する系統は、他産地に比べて花も球体のトゲも観賞価値が高いようです。

 

青白い球体に独特な花色のサボテン

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 HJK 22、独特な色の花

 これまた大きな花を咲かせる種類です。

 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 HJK 22 [Argentina. Jujuy: West of Juella, alt. 3,650 m]という種類です。学名の読みは、ロビビア・ヤヨイアナです。

 

 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂の名前で手に入れましたが、𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒎𝒂𝒓𝒔𝒐𝒏𝒆𝒓𝒊の可能性があります。この2種類は互いによく似ているので見分けが難しい時があります。一番確実な識別点は、種子の特徴です。

 

 種名はさておき、このHJK 22という系統はアルゼンチンの標高3,650 mの地点で採取された野生の系統です。HJK 22という系統内の個体で、花の色が黄色~オレンジ色と変化が幅広いようです。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 HJK 22、明るいオレンジ色の花

 写真の個体も全体としてはオレンジ色なものの、花びらの根元がピンクがかり、純粋なオレンジ色の花ではないことを示唆しています。

 交配したら様々な花色の個体が出てきそうで楽しみです。

 

 次の写真は同じHJK 22系統で個体違いです。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 HJK 22、こちらはサーモンピンク色の花

 こちらの個体は、オレンジ色にピンク色が混ざったような不思議な色合いです。

 

 また、上の写真では青白い球体も写っています。この色合いも他のサボテンには中々なく、花が咲いていなくても観賞価値のある種類となっています。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 HJK 22、同じ系統で花色に個体差がある。

 同系統の同じ株を1枚の写真でに撮りました。

 

 こうして見ると、花色の個体差がよくわかりますね。

 

 この種類も、花色・球体の色が素晴らしい系統です。おススメしたいですが、あまり流通がなく、アンデス高地のサボテンということもあって栽培もやや難しいようです。

 

 とは言え、気になった方は是非HJK 22という系統名や、学名で探してみてください。

 

もっとも素晴らしい系統の1つ

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 'Anemone'、ピンク色の花の系統

 今回最後の種類は、𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 'Anemone'という系統です。

 

 1つ前の種類と同種とされていますが、ピンク色の花の系統でアネモネと名付けられています。

 

 𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂や𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒎𝒂𝒓𝒔𝒐𝒏𝒆𝒓𝒊は、野生化では黄色~オレンジ色~赤色の花なので、ピンク色の系統は花色が変異した系統と考えられます。

 

 一方で、このアネモネは交配種とも言われますが、花や球体の特徴、そして栽培が少し難しいことを考えると他種の交配していない可能性もありえると思います。

 

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 'Anemone'、これは2020年開花の写真

 本種は花の開花期間が非常に短く、たいていは1日、長く持っても2日で花がしぼんでしまいます。

 

 今年は花が開くタイミングに晴れず、また開いている時間に写真を撮れなかったので、去年撮影した前回の写真を挙げます。

 

 全体はピンク色で、外側の花弁は金色に近い色でグラデーションが素晴らしいです。

 

 花も球体に比して非常に大きく、中心の濃紫色の部分は吸い込まれそうな印象すら与えます。

 

 個人的な意見ですが、花の大きさと色、球体のバランスからしてこのアネモネの系統は、原種・人工交配種を含めた花サボテンの中でも最も素晴らしい系統の1つと思います。

 

 今年は花が3輪付きましたが、鉢は直径6 cmほどで場所も取りません。

 

原種は比較的小型な種類が多い

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𝑳𝒐𝒃𝒊𝒗𝒊𝒂 𝒋𝒂𝒋𝒐𝒊𝒂𝒏𝒂 HJK 22

 今回紹介した種類は、どれも直径5 cm程から開花する比較的小型な種類です。場所をとらないで楽しめることが利点の1つと言えます。

 

 しかし、系統によっては花が大きく、色も鮮やかで、人工交配種にも引けをとりません。

 

 欠点があるとすれば栽培が少し難しい種類が多いことでしょうか。しかし、栽培が難しい種類は南米の高山帯の種類が多いですが、クーラーの設置は必要ないです。

 

 風通しを良くする工夫で日本の暑い夏も栽培できる種類が大半です。風通しが悪く高温になる温室に閉じ込めて栽培しなければ難しくはないと個人的には思います。

 

 栽培しやすい人工交配種も利点は多くありますが、昔に採取された素晴らしい系統にも目を向けてはいかがでしょうか?