tawashiatsume

植物、主にサボテン・多肉植物。時々登山、時々お酒。

虫のようなトゲを持つサボテン、マミラリア・ヘルナンデジー

虫のようなトゲを持つサボテン、マミラリア・ヘルナンデジー

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𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒆𝒓𝒏𝒂𝒏𝒅𝒆𝒛𝒊𝒊

 寒くなり、季節がそろそろ冬に移り変わってきました。我が家のある関東地方は、天気はよいもののからっ風吹く非常に乾燥した時期です。サボテンは気温の高い時期に成長するので、休眠期にあたる冬はサボテン栽培にとってつまらない季節ではないか、、、そう思っていた時期がありました。

 休眠期は成長しないで同じ姿のままでいるサボテンもありますが、一方で休眠期にはしぼんだり、色づいたり、地面に潜ったりするサボテンもあり、後者の種類は休眠期ならではの特徴的な生態が観察できて面白いものです。

虫のようなトゲを持つサボテン、マミラリア・ヘルナンデジー

 今回紹介するサボテンは、𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒆𝒓𝒏𝒂𝒏𝒅𝒆𝒛𝒊𝒊 マミラリア (マンミラリア)・ヘルナンデジーというメキシコに産する小型の種類です。写真の個体は直径が1円玉ほどしかありませんが、すでにキレイな紫色の花を咲かせる成熟株です。

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𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒆𝒓𝒏𝒂𝒏𝒅𝒆𝒛𝒊𝒊、直径は2 cmもないけど立派な親株

 タイトルの通り、小さいクモのようなトゲが特徴のサボテンで、人によっては気持ち悪く思うでしょう。写真を撮ったのは晩秋で、冬に向けて断水したために球体が縮んで地中に潜っています。成長期は水を吸って球体が膨らみ、もう少しサボテンっぽく見えますが、休眠期の姿はサボテンどころか植物とさえ思えません。小さいこともあり、「地面に何か変な物が落ちている」という印象です。

地面に潜り、隠れるサボテン

 「どうやって縮んで潜るのか」、「なぜ潜るのか」、休眠期も尽きない興味を与えてくれます。

 このサボテンは根がニンジンのように肥大・発達し、大きさが光合成を行う球体の2, 3倍にも達します。こういう形態の根は塊根 (かいこん)などと呼ばれます。塊根の役割は養分や水を貯えることで、雨の少ない乾燥地に適応していると言えます。また、光合成を行う球体は柔らかい質感で球体の水が少なくなるとしぼんで小さくなります。この塊根と球体の性質により、水が少ない時期は塊根に水を蓄え、球体はしぼんで地面に潜ることができます。

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𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒆𝒓𝒏𝒂𝒏𝒅𝒆𝒛𝒊𝒊、球体は地中に潜り地上にはトゲを出している

 潜ることの意味は、①乾燥や強い日射から球体を守ること、②動物などから見つかりにくくすること、等があると言われます。

 日差しが強いと地面の表面はかなりの高温になりますが、地中はそれより2, 3℃から数℃低いという乾燥地での測定データもあり、地中に潜ることにより少しでも高温による影響を少なくして水分の消失も和らげていると言われます。

 乾燥地は、概して植物が少なく、そこに緑色をした目立つサボテンが生えていればすぐに見つかり動物などに食べられることもあるでしょう。小さくて地面に潜れるこの種類は、乾燥地で隠れるのに十分な性質を持っており、発見されづらく生存率に貢献していると予想されます。事実、この種類が発見されたのも1978年とそれほど昔ではなく、見つけるのが難しかったのではないでしょうか。

 𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒆𝒓𝒏𝒂𝒏𝒅𝒆𝒛𝒊𝒊は果実の特徴も面白いですが、それはまた後で話題にしようと思います。成長しない冬でも面白いサボテンを眺めながら、春まで待つのも退屈しないものです。

栽培について

 春から秋にかけて成長しますが、日本の夏は湿気が多く苦手なようで成長が止まります。ニンジンのような塊根を持つこの種類は、水をあげすぎると湿気が多い時期などに腐りやすく注意が必要です。我が家では通年野外の直射日光・強風下に置き、親株の場合、春と秋に月に2, 3回水をあげるのみ、夏と冬は断水しています。

種の特徴

 𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂属は種数が非常に多く混沌とした属ですが、𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒆𝒓𝒏𝒂𝒏𝒅𝒆𝒛𝒊𝒊の特徴の1つである「成熟した果実が部分的、または完全に球体内に埋まる」性質により分類学的には明瞭な種類です。この性質を持つ種類は𝑴𝒂𝒎𝒎𝒊𝒍𝒍𝒂𝒓𝒊𝒂属では数種類しかなく、白いトゲの特徴も考慮すると他に紛らわしい種類はないようです。