tawashiatsume

植物、主にサボテン・多肉植物。時々登山、時々お酒。

サボテンもどき?玉のようになるユーフォルビア・シンメトリカ

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𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂

 あたかも丸いサボテンのように見える多肉植物、𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂 ユーフォルビア (エウフォルビア)・オベサのシンメトリカ亜種。

 丸々とした茎はサボテンのようですが、こちらはトウダイグサ科の植物です。サボテンはサボテン科の植物なので、類縁関係は遠いはずです。

 日焼けした日本人が、たまたま東南アジアの人によく似てしまうような、他人の空似です。

そっくりさんが他にもいて紛らわしい

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𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂、種から2年程の個体たち

 このユーフォルビア・シンメトリカは、基準種である𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ユーフォルビア・オベサと非常によく似ています。他にもよく似た種類がユーフォルビア属にあります。

 ユーフォルビア・オベサも種から育てていますが、若いうちは区別をつけるのが難しいです。

 あまりにも似ているので、本当に亜種として分けるくらい違うのか?と思って調べてみることにしました。ちなみに、原産国の南アフリカ共和国レッドリストでは、この2種は同じ種類として扱われており、区別しないとする意見もあります。

いつも通り調べることにした

 ネットにもこの2種類の違いを書いてあるブログなどありますが、どれも参考文献や参考情報が全く書かれていないものが多かったので、自分で種の記載文から読んでみることにしました。

[調べたこと・もの]

𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂と𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂の種の原記載文、及びそれに相当する文献

②2種類の写真 (自分が持っている個体は若くて、比較に十分ではないので)

③(あれば) 遺伝子から解析した系統解析の研究情報

どうやら違うらしい、、、

①原記載文と②写真

 原記載論文をすぐに読めそうになかったので、ユーフォルビア属のrevisionに相当する文献を読みました。「Illustrated Handbook of Succulent Plants: Dicotyledons」という書籍です。

 この文献で2種類の違いを記述している部分を抜粋してみました。以下が原文です。

𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂

「...R tapering from below the stem: stem simple, subglobose to cylindrical, to 20 × 9 cm, 8-ribbed (rarely 7- to 10-ribbed), shallowly grooved between, with numerous transverse purplish lines; ...」

「... Cy solitary or in 2- to 3-rayed cymes near the stem tip; ...」

(Albers 2004)

・𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂

「Differ from ssp. obesa: R sharply conical: stem to 6 × 7 cm, apex depressed; ...」

「... Cy usually 2 – 3 together in a horizontal line near the stem apex.」

(Albers 2004)

 それぞれの1項目目は、根と茎に関する記述です (RはRootの略号)。

 これを読むと、根はどちらも塊根状になるけど、シンメトリカの方がニンジンのような形の根になるのかな?という感じ。根は写真などで確認できなかったので、ここではノーコメントです (原記載はこうでしたというだけです)。

 茎は、ネットでもよく言われているように、オベサは円柱状に育ち、シンメトリカは丈は高くならず球形であるようです。

 次は2項目目です。

 CyはCyathiumの略号で、Cyathiumは花や花序という意味です。調べるとユーフォルビア属など一部のグループで用いられる用語のようです。

 この花が、オベサだと単一か、花茎の先に2、3の花が集合花序状に着くとあります。一方、シンメトリカでは大抵は2、3つの花が一緒に水平線状に着くとありました。

 少しイメージしずらかったので、シンメトリカの記述に合致するようなシンメトリカの花の写真を探したところ、、、下記のページにありました。

www.cacti.co.nz

 ユーフォルビアの花は側芽に相当する部位から出ますが、シンメトリカの場合は上記のページの写真のように1つの側芽から直接2、3つの花が横方向 (水平方向)に生じています。

    大きな株の側芽を見ると、花芽が3つほど出そうな水平方向に長い芽になっています。

 オベサだと、ネットの写真でよくありますが、1つの側芽から1つの花が生じるか、2、3つ生じる場合は側芽から花茎が出て花茎から花が生じていました。

    オベサの側芽は花芽は1つしか生じないので、側芽は水平方向に広がりません。

ちなみに、上記のページで同じ人があげているオベサの写真は以下です。

www.cacti.co.nz

 うーん、なるほど、、、この花の付き方の違いは結構重要な識別点だと思います。これなら亜種で区別する意見にもうなずけます。

③遺伝子解析による系統解析

 系統解析の論文はあるかな~と思って探すと、それらしい論文を2報見つけました。

 「Phylogeny of subsect. Meleuphorbia (A. Berger) Pax & Hoffm. (Euphorbia L.) reflects the climatic regime in South Africa (Ritz et al 2003)」という2003年の論文と、「Further support for the phylogenetic relationships within Euphorbia L. (Euphorbiaceae) from nrITS and trnL–trnF IGS sequence data (Zimmermann et al 2010)」という2010年の論文です。

 2003年の論文は、細胞核の一部の遺伝領域 (ITS)を調べて系統樹が作成されていましたが、オベサとシンメトリカで一応違いがあるという程度。この論文は近縁種のみの解析だったので、もう少し多くの種類や葉緑体の遺伝領域も調べている論文はないかとなりました。

 すると、2010年の論文ではより多くのユーフォルビア属の種類を材料に、細胞核の一部の遺伝領域 (ITS)葉緑体の一部の遺伝領域 (trnL-trnF)を調べ、ユーフォルビア属を包括的に調べた系統樹が作成されていました。

 論文の中でオベサとシンメトリカの違いは記述されていませんでしたが、系統樹を見ると遺伝的にもそれなりに違いがありそうで、少なくとも亜種として区別するなら問題がないように思われました。

結論:(個人的には) オベサとシンメトリカは違うと思う

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𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂、シンメトリカの方が形がより丸い傾向にはある。

 調べた結論を言いますと、形態的にも花の付き方が異なるのは有意な違いであるのと、遺伝的にもある程度分化が進んでいると判断したので、個人的にオベサとシンメトリカを亜種のレベルで区別するのに異議がないです。

 もしかしたら種として区別してもよいかもとも思いました。

 ネットで色々探している中で、𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂とされているものも実際は𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂であるものがかなり混ざっていたので、混同されやすいようです。

 本物の𝑬𝒖𝒑𝒉𝒐𝒓𝒃𝒊𝒂 𝒐𝒃𝒆𝒔𝒂 ssp. 𝒔𝒚𝒎𝒎𝒆𝒕𝒓𝒊𝒄𝒂は比較的少ないようですが、ちゃんと識別するにはある程度大きくなってから花の付き方を観察する必要があると思います。

 また、すでに交雑している可能性も多そうでした。

 なにやら専門的な内容になってしまいましたが、今回はこれくらいで終わります。自分の株に花が咲いたら、また投稿しようと思います。

栽培について

 我が家では通年野外で栽培し、凍らなければ越冬するように思います。基本的に日光と通風を好みますが、日本の夏は苦手なようで夏だけは遮光することもあります。水やりは大きくなった株で成長期は1週間に1回程度、夏は全然成長しないのでもっと少なくすることもあります。

 オベサもシンメトリカも、自生地は南アフリカ共和国の東ケープ州の西側のようです。東ケープ州は経度方向に広く、場所によって環境の差が大きいです。州の東側は夏に雨が降ったり高温になる地域 (夏季降雨地帯)ですが、西側は西ケープ州 (冬季降雨地帯)との境で、微妙な環境のように思われます。

 経験上、東ケープ州の西側に生える多肉植物は成長期がつかみづらく、暑すぎず寒すぎずの環境でよく育ちます。日本だと春や秋が成長期なように感じられます。

参考文献

Albens, F. (2004), in Eggli (Ed.) (2004). Illustrated Handbook of Succulent Plants: Dicotyledons, pp. 171 -172, Springer.

Ritz, C. M., Zimmermann, N. F. A. and Hellwig, F. H. (2003). Phylogeny of subsect. Meleuphorbia (A. Berger) Pax & Hoffm. (Euphorbia L.) reflects the climatic regime in South Africa. Plant Systematics and Evolution, 241 (3): 245 - 259.

Zimmermann, N. F. A.Ritz, C. M. and Hellwig, F. H. (2010). Further support for the phylogenetic relationships within Euphorbia L. (Euphorbiaceae) from nrITS and trnL–trnF IGS sequence data. Plant Systematics and Evolution, 286 (1): 39 - 58.