𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 プセウドリトス・ギガス
何やら今回は長く、専門的な内容を含みそうです......。今回の記事を要約すると下記のような感じになります。前半はいつも通り「こんな植物だよ」という紹介になりますが、後半は分類学 の内容になります。
①我が家で育てていた𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 プセウドリトス・ギガスに花が咲きました!
②𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔 プセウドリトス・クビフォルミスとして買いましたが、花が咲いてフォロワーの方から、𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 プセウドリトス・ギガスではないかと指摘を受けて調べる。
③記載論文を調べると確かに、我が家のは𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 プセウドリトス・ギガスであることが判明。ネットで𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔 プセウドリトス・クビフォルミスとされている個体も、大半は𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 プセウドリトス・ギガスである。
沢山のイボを持った多肉植物
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、葉がない凸凹した茎を持つ植物
数多ある
多肉植物 の種類の中でもかなり奇怪な見た目をしているであろうこの植物。学名を𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 プセウドリトス・ギガスと言います。ガガイモ科という植物のグループの1種です。ガガイモにはこのような葉が退化した奇妙な見た目の種類から、葉を持ち普通の見た目の種類まで様々あります。
本種は凸凹したジャガイモのような見た目をしていて、緑色をしているということ以外は一見して生きている植物には思えません。
非常に乾燥した地域に生えるために葉は退化し、この凸凹した茎だけで
光合成 を行って、とても奇妙な花を咲かせます。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、ちゃんと根もあります。
上の写真は2019年5月に植え替えをした時の写真です。茎の一番下の部分から根が生えています。植え替えをする前は地面の下の部分が想像できなかったので驚きました。
葉はないけど、緑色の茎もあるし根っこもある、ちゃんとした植物なんだねぇ、と。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、茎の頂点の拡大
茎の表面を拡大して見てみると、大小様々なイボの構造があります。まるで爬虫類の肌のようです。緑色なので「(
スター・ウォーズ の)
ヨーダ みたい」という人もいました。個人的には「
ヨーダ 」がツボにはまっているので「
ヨーダ 」と呼んでいます(笑)
「ヨーダ 」に花が咲きました
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、沢山のつぼみがついた写真
時は寒くなり始めた11月頃、「
ヨーダ 」の故郷は
エチオピア の暖かい地域なので室内に取り込んで育てていました。ふと目をやった時、いつも変化に乏しい茎の脇からピョコっと小さな芽が出ているのに気が付きました。
芽が出てから1週間ほどで上記のように立派なつぼみが作られ、「ついに花が見れる!」とワクワクしながら毎日観察をしていました。そしてつぼみが大きくなりきってから数日後、天気の良い日に開花しました。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、花が満開
1つ1つの花は2 cmほどですが、数十も一気に咲くので見事でした。毛の生えた大量の触手を広げているようで、人によっては気持ち悪いと思うでしょう。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、花の花弁のような部分は毛が生えている
ところで、ガガイモの仲間の花はくさい臭いを放つことで有名ですが、この種も例外ではなく臭かったです(笑) 腐った肉の臭いなどと言われますが、個人的には💩💩💩の臭いでした。花の満開時は部屋に充満するほど強烈でした。この臭いは昼間こそ強烈でしたが、夜にはほとんど臭いませんでした。
このような臭いを放つ理由は、ガガイモの仲間がハエに受粉を助けてもらうからです。よくハエが花に寄ってきてウジを産み付けているのを見ます。花にハエをおびき寄せ、花粉を雌しべにつけさせて受粉するようです。
余談ですが、花に産み付けられたウジはエサが無くて死んでしまうので、一見ハエは利用されているだけのようにも思えます。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔?それとも𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔?
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、凸凹した茎の表面
ここから専門的な内容に入ります。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔という名前で買いましたので、「𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔の花が咲いた」で話が終わるところでしたが、とあるフォロワーさんより「花の特徴が𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔ではなく𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔ではないか」との指摘を受け、調べてみることにしました。
ネットで学名を検索すると、有名な𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔の方は種の特徴が出てくるのですが、書かれていた花の特徴がそれほど詳しくなかったのでこの2種の原記載論文 (種を発表した際の論文)を読んで、植物の分類に重要である花の特徴を観察しました。
花の特徴は𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔と一致
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、花の花冠の裂片の先端部に棍棒 状の長い毛がない。
分類学 的には、ガガイモの花の花びらに見えるのは実は花びらではなく「花冠 (かかん、corolla)」と呼ばれる構造の一部です。花冠が5つに裂けていることが多く、避けている部分を「裂片 (れっへん、lobe)」と呼びます。
途中の顛末は端折りますが、原記載論文や他の文献も調べたところ、𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔の特徴の記載文では「花冠の裂片の先端部に
棍棒 状の毛が生える。外副花冠どうしは癒着せず分離している。」(Bally, 1959より特徴を和訳)とあります。
一方、𝑷. 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔の特徴の記載文では「花冠の裂片の先端部に
棍棒 状の毛を欠く。外副花冠は、内副花冠の基部で稜状の構造を伝って癒着し、円盤状になっている。」(Dioli, 2002より特徴を和訳)となっています。
上の写真を見ると、花冠は短い白色の毛で覆われていますが、先端には長い
棍棒 状の毛はありません。次に、副花冠について拡大写真を見てみましょう。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、花冠の内部に外副花冠と内副花冠が5つずつある。
花冠の根元の筒状の構造の中に、「副花冠 (ふくかかん、corona)」と呼ばれる、ごくごく小さい花の構造があります。
まず、花を解剖して副花冠を取り出しました。この
副花冠 は𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔では幅2 mmと非常に小さかったので、
スマホ に
ダイソー の100円接写レンズを付けて撮影しました。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔、副花冠など花の微細構造
ここで5つある「外副花冠 (がいふくかかん、outer corona)」は「内副花冠 (ないふくかかん、inner corona)」の根元で癒着し、1枚の円盤状のような構造に見えます。この特徴も𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔と記載論文と一致します。
花冠の裂片先端の毛の有無と副花冠の特徴を観察して、いずれも𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔の特徴と矛盾しないため、この個体は𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔であると判断しました。
真の𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔は?
「𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔」で検索してもほとんど写真が出てきませんが、「𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔」で検索して出てくる写真はほとんどが𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔でした。種の同定がほとんど間違っていた訳です。
念のため、真の𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔がどんな見た目なのか、そもそも存在するのか調べてみると、上記の検索結果の中に本当の𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔と思われる個体が少ないながらもありました。
以下のページの個体が真の𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔です。
いずれも、花弁のような花冠の裂片の先端に赤紫色の長い毛が生えているのが特徴です。
忘れ去られた𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔が新種として発表されたのは2002年と比較的最近のことですが、発表より前から出回っていた種が𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒄𝒖𝒃𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔として認識されていたせいなのか、他の何らかの原因で、𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔は新種発表後にほぼ忘れられてしまったようです。
実際には𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔は市場にも結構出回っていますし、正しい認識で種が広まるとよいなぁと思って今回は長文で専門的な内容の記事を書きました。
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔 を調べるきっかけとなる指摘をしてくださったフォロワーさんにはこの場でお礼を申し上げます。
参考文献
Bally, P. R. O. (1959) Lithocaulon cubiforme . Candollea xvii. 58.
Dioli, M. (2002) Two New Species of Pseudolithos P. R. O. Bally (Apocynaceae - Asclepiadoideae) from the Horn of Africa. Kew Bulletin 57 (4): 985 - 988.
栽培について
𝑷𝒔𝒆𝒖𝒅𝒐𝒍𝒊𝒕𝒉𝒐𝒔 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒔は春から秋にかけて成長し、寒い冬は苦手です。春から秋は野外の日当たりよく風通しが良い場所で栽培し、冬は12℃以上保てる室内で栽培しています。成長に適切な環境であれば意外と水を好むようで、成長期は1週間に1、2回ほどあげています。真夏の湿気が高い時は1月に1、2回と控えめにして腐らないようにしています。冬も15℃以上保てれば月に1~4回ほど様子を見て鉢底から出ない程度の水を与えています。
乾燥地の植物なので水やりを少なめにしても枯れませんが、ほとんど成長しません。自生地のような平べったい姿を保ちたければ水やりを少なめにしてみるのもよいでしょう。