tawashiatsume

植物、主にサボテン・多肉植物。時々登山、時々お酒。

樽のように幹が太く大きくなる種類、パキポディウム・レアリー

f:id:tawashiatsume:20200703224844j:plain

𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 昨今の多肉植物ブームの中でも、常に人気な種類の中心に君臨し続けるアフリカの多肉植物𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 パキポディウム

 細かく亜種や変種まで分類すると20種類ほどが発見されていますが、そのいずれの種類も茎や根が肥大しやすく、しばしばボトルのような不可思議な形になります。

 それゆえ、観賞価値があるとされ、人気があります。

 パキポディウム属の中では、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒈𝒓𝒂𝒄𝒊𝒍𝒊𝒖𝒔 パキポディウム・グラキリウスが最も有名な種類でしょう。手のひらに乗るようなサイズでも真ん丸に太る三角錐のボディは初めて見る人の目を惹き付けます。

 今回紹介するのは、そんなパキポディウム属の中でも最も目にする機会が少ない種類の1つです。しかし、最も素晴らしい種類の1つであり、大いなるポテンシャルを秘めた種類だと個人的には信じています。

背丈は数メートルに達し、幹は幅1 mにも達する

 今回紹介する種類は、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 パキポディウム・レアリーという種類です。

 まず、自生地の悠然たる姿を見てもらいたいです。

 上記のリンクの写真は横に人が並んでいますので、幹の太さがよくわかるかと思います。

 次の写真もどうでしょう?

 いずれも幹の下部がでっぷりと太ったボトルのような形をしています。

 太った幹から鋭いトゲだらけの細い枝を分岐させている姿は、「珍奇植物」「ビザールプランツ」と呼ぶにふさわしいです。

 幹の形だけなら他のパキポディウム属の種類も似たような形になるのですが、パキポディウム・レアリーの素晴らしい所は、背丈が10 m近くにもなるため相対的に幹もより一層、樽のように太くなることです。

 パキポディウム属の種類は、それほど大きくならない (背丈が1.5 mほどまで)けど幹がボトルによく太る種類と、背丈が大きくなるけど幹はボトル状にまでは太らない種類が大半です。

 なので、パキポディウム・レアリーのような、背丈は数メートルを越えて幹もボトルに太くなるという壮大な種類は、パキポディウム属では珍しいのです。

小さい苗の頃からよく太る種類

f:id:tawashiatsume:20200703224840j:plain

𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 さて、ここからは栽培品の紹介です。

 2018年の9月頃に、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 パキポディウム・レアリーの産地情報付きの種を買って播きました。

 黒背景の写真は2020年6月に撮影したので、種から約1年と8ヶ月育てた苗になります。2年弱で根元は幅3 cmほどに肥大し、一方で背丈はあまり伸びなかったので、ずんぐりとした姿になりました。

f:id:tawashiatsume:20200703224850j:plain

𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 若い苗なのにペットボトルのような形になるので優良な種類です。あまり個体差もないことも逆によいです (他のパキポディウムは、幹の太さ等個体差が大きい)。

 他に分かりやすい特徴として、艶消しの若葉色の葉と、葉と同じくらい長くなるトゲが挙げられます。この二つの特徴も、他のパキポディウムの種類とはあまり共通せず、際立っています。

 種から栽培した様子を時系列順に見てみましょう。

発芽してすぐに幹が太り始めた

f:id:tawashiatsume:20200703225422j:plain

発芽後4ヶ月、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 上記は発芽して4ヶ月ほどの姿で、葉が落ちている時期の様子です。

 すでに幹は100円玉と同じくらいの太さになっています。

 子葉が付いていた跡より下で特に幹の肥大が大きいことから、芽の胚軸と呼ばれる部分が急激に太くなったことがわかります。

f:id:tawashiatsume:20200703225427j:plain

発芽後4ヶ月、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 横から見てみると、既にペットボトルの形になっていることと、落葉している時期でも幹がひび割れを起こして太くなり続けていることもわかります。

 マダガスカル産のパキポディウムは暑い時期に成長するために、落葉する時期は成長せず、むしろ断水して幹がしぼむことが多いです。

 しかし、パキポディウム・レアリーは多少は耐寒性があるのでしょうか、我が家では日光によく当てると冬でも幹が太くなります。

休眠期でも姿を楽しめる幹とトゲ

f:id:tawashiatsume:20200703224810j:plain

発芽後約1年、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 次は、発芽後約1年経過した姿です。

 背丈はあまり大きくなっていませんが、幹が太くなったことと、鋭く長いトゲが生えたことがわかります。

 落葉している姿の写真ばかり撮っていたのは、この姿の方が太い幹と長いトゲがよく見えるからです。個人的には、落葉している時期の方が観賞価値が高いのではないかとさえ思っている次第です。

f:id:tawashiatsume:20200703224816j:plain

発芽後約1年、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 ちまたでは、パキポディウム・レアリーは栽培が難しい種類として知られているようです。

 成長は遅いものの、我が家ではよく育ちまだ1本も枯らしていないので、それなりに頑丈な種類だと思っていたのですが、他の栽培家の方ではどうなのでしょうか。

 我が家では通風がよい環境でできるだけ日に当てて育てています。他のパキポよりは水やり少なめです (水が切れても幹がへこまないからあまり水をあげない)。もしかしたら蒸れや夜の高い気温に弱いのかもしれません。

パキポディウムギガンテウムとも呼ばれた種類

f:id:tawashiatsume:20200703224844j:plain

発芽後1年と8ヶ月程、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 最後に、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 パキポディウム・レアリーにまつわる分類学の話を少しします。

 𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 パキポディウム・レアリーは、現在ではアフリカ大陸南西部のナミビアアンゴラボツワナに分布する種類とされています。モザンビーク南アフリカスワジランドジンバブエに産する𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒔𝒂𝒖𝒏𝒅𝒆𝒓𝒔𝒊𝒊を、𝑷. 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊の亜種としてまとめる意見もあります。

 確かにこの2種は似ているものの、育てて見ると𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊の方が成長が遅く、幹が太くなりやすいように感じます。

f:id:tawashiatsume:20200703224900j:plain

発芽後1年と8ヶ月程、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊1871年に、かの有名なオーストリアの植物学者Friedrich Welwitsch フリードリヒ・ヴェルヴィッチュによってアンゴラ産の標本を元に記載されました (彼の名前は奇想天外の属名になっているので、聞いたことがある人も多いと思います)。

 その後、1895年にナミビア産の標本を元に𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒏𝒕𝒆𝒖𝒎 パキポディウムギガンテウムという種類が新種として記載されました。この記事の冒頭の𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊の自生写真はナミビアで撮影されたもので、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒏𝒕𝒆𝒖𝒎と呼ばれたものに近いと考えられます。

 写真の姿を見ると、種小名の「巨大な」を意味する𝒈𝒊𝒈𝒂𝒏𝒕𝒆𝒖𝒎も納得がいきますね。

 しかしその後、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒏𝒕𝒆𝒖𝒎𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊と同種とされ、名前の存在を知る人が少なくなってしまいました (命名は早い方に権利があるので、記載が古い𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊の名前が残った)。

f:id:tawashiatsume:20200703224856j:plain

発芽後1年と8ヶ月程、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 一方、現代の栽培家の噂で「𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊には、北方タイプと南方タイプがある」と聞きました (私自身は𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊をタイプ別に比べたことがないので、あくまで「噂」とします)。

 𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊の分布はナミビアアンゴラボツワナですので、この噂を大雑把に解釈すると、アンゴラ産が北方タイプナミビアボツワナ産が南方タイプになりましょうか。

 先の分類学の話も合わせると、推測にすぎませんが、Welwitschが記載した真の𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊が北方タイプ、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒏𝒕𝒆𝒖𝒎が南方タイプということになります。

 自分が今栽培している株は、幸いにも産地情報がついていて、ナミビアのクネーネ地区のパームワグからグルートバーグパスに至る場所で採取された系統のようです。

 この系統は、北方タイプ、南方タイプのどちらなのか、かって𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒈𝒊𝒈𝒂𝒏𝒕𝒆𝒖𝒎と呼ばれたものと同じなのか、、、分類学の資料を片手に、あれこれ考えながら栽培を続けています。

f:id:tawashiatsume:20200703224844j:plain

発芽後1年と8ヶ月程、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊 [Namibia. Kunene: Palmwag - Grootberg Pass]

 いずれにしても、この産地の系統は幹がボトル状によく肥大する系統のようで、その姿を目指してこれからもこの種類と付き合っていきたいと思います。

 この系統の種子を販売していた業者からはもう輸入できなくなってしまったので残念ですが、𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊、あわよくば産地情報や系統がわかっているものの種子の販売でも見かけましたら、是非種から育てて見ることをオススメします。

 昨今は現地から引っこ抜かれた人気なパキポディウムのベアルート株をよく市場で見ますが、マイナーなパキポディウムの種類を種から育ててはいかがでしょうか? (𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 𝒍𝒆𝒂𝒍𝒊𝒊はベアルート株をほぼ見かけません。活着が難しいのかな?)

栽培について

 春から秋にかけて成長する多肉植物です。例年5月頃に葉を出し、真夏はあまり成長しませんが10月頃まで成長し、落葉します。落葉期間も陽がよく当たると幹が成長します。

 水やりは、桜の花が咲いてから1ヶ月後くらいしてからあげ始め (もっと遅くても大丈夫です)、以降は落葉するまで週に1、2回与えています。他のパキポディウムと異なり、夏でも冬でも水を与えなくても中々幹がへこまないので、あまり水を与えていません。

 置き場所は、成長期は屋外の日当たり良く風通しが良い場所です。落葉後は室内に取り込み10℃以上は保っています。寒さにある程度強いとのことですが、どれくらいまで耐えられるかは不明です。

 参考までに自生地の1つのナミビアは、昼間の気温はそれなりに高くなりますが、夜は冷え込むようです。

種の特徴

 以下の資料を参考にしました。

 𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎 (Apocynaceae) (S. H. J. V. Rapanarivo 1999)のChapter Ⅰ 「Taxonomic revision of 𝑷𝒂𝒄𝒉𝒚𝒑𝒐𝒅𝒊𝒖𝒎: Series of revisions of Apocynaceae XLVIII」(S. H. J. V. Rapanarivo & A. J. M. Leeuwenberg)