tawashiatsume

植物、主にサボテン・多肉植物。時々登山、時々お酒。

リトル・カルーに生える南アフリカの奇妙な多肉植物

 

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𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆、毛の生えた緑色の卵??

  アフリカ大陸の南端、南アフリカ共和国の南西部にLittle Karoo (Klein Karoo) リトル・カルーと呼ばれる大きな谷があります。

 リトル・カルーは、周りを山脈に囲まれた乾燥地で、南アフリカに産する乾燥地に適応した多様な多肉植物を始め、豊かな自然が見られるようです。

↓英語ですがリトル・カルーの紹介サイトです。

 「リトル」というのは、リトル・カルーの北方により大きく広いGreat Karoo グレイト・カルーがあり、グレイト・カルーに比べて面積的に小さいということのようです。

 このリトル・カルーの西部に生える奇妙な2種類の多肉植物を育てているので、それらの紹介になります。

毛が生えた緑色の卵??

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𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆、自然の植物には見えない。

 初見でこれが自然に生える植物だと思う人は少ないのではないでしょうか。

 私の第一印象は「毛が生えた緑色の卵」でした。

 学名は𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆 ムイリア・ホルテンセ。日本の園芸名だと宝輝玉 (ほうきぎょく?)と呼ばれるようです。

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𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆、表面には短い毛がびっしり生える

 玉のような部分は、葉または茎の形が変化し、乾燥地に適応して表面積を少なくするような単純な形に進化したのではないかと予想しています。

 1年で花を咲かせる時と1回葉 (玉)が入れ替わる時以外変化に乏しく、なおさら生きている植物かどうか疑問を抱きます。

 玉の頂点にはごく小さな「切れ込み (穴)」があり、花が咲く時や新しい玉が出てくる時は、小さな切れ込みから皮を破って出てきます。

 花は白い花のようです。見てみたいですね。

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𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆

 この玉の感触は弾力があって、水が切れてくるとブニブニした柔らかい饅頭のようになり、水を吸うと少し硬くなります。

 栽培については詳しく後述しますが、人気がありそうなのにあまり出回ってないことから少しクセがあると思われます。

 でも、見かけたら是非栽培にチャレンジして欲しいですね。

道端の石のような葉を持つ種類

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𝑫𝒊𝒅𝒚𝒎𝒂𝒐𝒕𝒖𝒔 𝒍𝒂𝒑𝒊𝒅𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔

 南アフリカ南部には、小石に擬態していると考えられる多肉植物が多数あり、これもその1つです。

 学名は𝑫𝒊𝒅𝒚𝒎𝒂𝒐𝒕𝒖𝒔 𝒍𝒂𝒑𝒊𝒅𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔 ディディマオツス・ラピディフォルミス。日本の園芸名は、霊石という面白い名前です。

 葉は2つに割れたブロックのような形をしていて、大きさと形はまさに石のようです。写真の個体は種から育てて1年半ほどです。葉の大きさが数 cmほどでも成熟します。

 栽培下では葉が緑色になることが多いのですが、自生地では強光線のためか赤茶色になっていて、石に擬態していると思われます。

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𝑫𝒊𝒅𝒚𝒎𝒂𝒐𝒕𝒖𝒔 𝒍𝒂𝒑𝒊𝒅𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔、2つに割れた葉が特徴。

 ディディマオツスの葉の感触は硬く、感触も石のようです (少なくとも我が家ではそうです。他の栽培場所ではどうなのでしょうか)。

 花は薄いピンク~マゼンタ色の花を咲かせるようで、これも花を楽しみに育てています。

 前出のムイリア・ホルテンセと同様に、この種類も流通が少なく栽培はやや難しいと考えられます。

 海外のナーセリー由来の種子が流通しており、日本でも輸入種子がときどき出回っています。株の入手は難しいですが、種子からチャレンジされてはどうでしょうか?

栽培について

 リトル・カルーに生えるこの2種類とも、栽培にクセがありやや難しい~難しい種類として知られています。

 なぜ難しいのか、自分の少ない経験と他の情報を合わせて考えてみました。

 

 結論から言ってしまうと、次の理由から栽培が難しいのではないかと推測しています。

①リトル・カルーは、雨季と乾季の区別が明確でない。

②リトル・カルーはやや内陸に位置し、周りを山に囲まれた盆地のようになっている。

 

 それぞれの理由について詳しく見ていきましょう。

①リトル・カルーは、雨季と乾季の区別が明確でない

 これについては、テクノロジーの発達とともにパソコンですぐに調べられます。よい時代になったと思います。

 一番最初にリトル・カルーを紹介する英語のページへのリンクを張りましたが、ここを見てみるとリトル・カルーの町の名前がいくつかわかります。

 

 試しに、リトル・カルーの西部にあると思われるBarrydale (バリーデール)という町の降水量を調べてみましょう。

 Googleの検索で「barrydale climate」と入れて検索すると、年間の月別の平均気温と降水量を示すグラフのあるページがいくつか出てきます。

 どれでもよいと思いますが、例として下記のページを見てみましょう↓↓

ja.climate-data.org

 このページの一番上に、 (1) 年間の月別の降水量と平均気温を示すグラフと、(2) 月別の平均最高気温と平均最低気温を示すグラフが表示されています。

  (1) 年間の月別の降水量と平均気温を示すグラフからわかることは、乾燥地ですから降水量は少ないものの、季節によって降水量に大きな差がないことです。

 

 参考として、季節によって降水量に大きな差がある例も見てみましょう。

 南アフリカの西ケープ州のPiketberg (ピケットバーグ)という町の降水量を見てみましょう↓↓

ja.climate-data.org

 年間の月別の降水量と平均気温を示すグラフを見てみると、平均気温が低い時期 (冬)に降水量が多く、夏は降水量が少ないことがわかります。つまり、雨季と乾季の差が明瞭であると言えます。

 

 これらのことから、リトル・カルーは季節による降水量の変化が小さく、雨季と乾季の差が不明瞭であると言えます。

 BarrydaleとPiketbergの年間の平均総降水量はほぼ同じ値 (440 mmと435 mm)なので、季節による降水量の変化はそれなりに影響があるのではないでしょうか?

②リトル・カルーはやや内陸に位置し、周りを山に囲まれた盆地のようになっている

 「リトル・カルーは山に囲まれている」ことは、一番最初のリトル・カルーを紹介する英語のページにも書いていたかと思いますが、実際に調べてみましょう。

 

 Google検索で「barrydale」と検索し、上にある地図メニューを押すと、Google MapでBarrydaleの地図上の位置を見ることができます↓↓

www.google.com

 縮尺を拡大していってみると、Barrydaleの南にはLangeberg Mountainsという山があることが地図からわかります。

 

 なるほど、確かに南の方の海とは山で隔てられていて、盆地のようになっているのかなと推測できます。

 さらに、このLangeberg MountainsGoogle検索で調べると、長さ170 kmに渡る山脈で最高峰は標高2,075 mということがわかります。

 東京都の東京駅から静岡県の静岡駅まで距離が約180 km (参考:JR東日本の乗換検索)、東京都の最高峰の雲取山が標高2,017 mということを考えると、大きさがイメージしやすいでしょうか?

 

 それなりに大きな山脈で高さもあるということがわかり、確かに隔てられた盆地のようです。

栽培経験とこれらのことから何が言えるか?

 まず、𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆 𝑫𝒊𝒅𝒚𝒎𝒂𝒐𝒕𝒖𝒔 𝒍𝒂𝒑𝒊𝒅𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔を栽培していると、夏でもコノフィツムのように葉が枯れたような見た目にならないことがわかりました (𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆は葉が黄色くなったり多少枯れているような見た目になることもあります)。

 前述の、リトル・カルーの雨季と乾季の区別が不明瞭なことも合わせて考えると、明確な休眠期を持たないのではないかと推測しています。

 

 つまり、栽培においては夏であっても完全に断水することは避けた方がよいのではないかと思います。夏に休眠するコノフィツムであっても完全に断水するのはよくない種類が多いので、𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆 𝑫𝒊𝒅𝒚𝒎𝒂𝒐𝒕𝒖𝒔 𝒍𝒂𝒑𝒊𝒅𝒊𝒇𝒐𝒓𝒎𝒊𝒔はなおさらでしょう。

 

 また、リトル・カルーが内陸の盆地であることから、沿岸部と比べて気温の日較差が大きいこと、つまり1日の最低気温のと最高気温の差が大きいことが推測されます。

 昼間の気温はそれなりに高くなっても夜間に冷え込むでしょう。

 前出のBarrydaleの月別の平均最高気温と平均最低気温を示すグラフを見ると、年間を通して最低気温と最高気温の平均の差は約15℃であることがわかります。

 

 Barrydaleの平均的な夏は昼間に30℃くらいまで上がるものの、夜間は15℃くらいまで下がるようです。乾燥地ですから、体感的にもかなり涼しい気候であることがわかります。

 

 これらのことをまとめて考えると、明確な休眠期を持たず (=夏であっても完全断水はしない)、かつできるだけ夏を涼しく過ごさせなければならないこと (特に夜間の冷え込みが重要ではないかと思います)がわかります。

 日本の平均的な夏は蒸し暑く夜間も高温なので、この点が栽培が難しいということに繋がっているのではないでしょうか。

我が家の栽培方法

 栽培方法というほど確たるものではないですが、我が家でのさいばいについて書きます。

 

 我が家では、年間を通じて風通しの良い野外の場所で管理をしています。冬も寒い時で-1、2℃なので、雨よけをして放置です。東北の栽培家の方によると、𝑴𝒖𝒊𝒓𝒊𝒂 𝒉𝒐𝒓𝒕𝒆𝒏𝒔𝒆は寒さに強いようです。これも自生地が盆地であるためでしょうか。

 真夏の気温が高く蒸し暑い時期以外は、基本的にできるだけ直射日光に当てるようにしています。風が強いので、日焼けは起こしていません。夏だけはやや日陰 (または朝だけ日光があたる場所)の風通しがよい場所で育てています。

 

 水やりは、親株の場合、秋から春の生育期で1週間に1、2回程度様子を見て行っています (乾燥に強いようなのでもっと低頻度でも大丈夫なようです)。株が小さい時はもっと高頻度で与えています。生育期は鉢から水が出るほどたっぷり与えています。

 夏の水やりは、植物の様子を見ながら水が無くなって葉が少ししおれた時にあげています。頻度にすると、1ヶ月に1~4回でしょうか。風が強い我が家は夏でも週1で与えることがあります (他所ではもう少し低頻度になると思います)。

 また、水をあげる日はなるべく涼しい日の夕方で、鉢から水が出ないほどの少量の水を与えています (表土が1日で乾く程度)。

 

 他は生育期に2、3回液肥を与える程度で、気を付けていることはどの季節でも蒸らさないようにすることです (夜間の気温を低くすることとほぼイコールと思っています)。常に空気の動きがあるような場所ですと、夏でも腐りにくいと思います。また、夏までに根が充実していないと腐りやすいように感じました。

種の特徴

 (後日記述)